すでにプレスリリースなどでご存じの方もいらっしゃると思いますが、2023年3月2日よりKDDIが運営する動画アプリ『au 5Gチャンネル』にGunosyが独自開発した推薦アルゴリズムの提供を開始しています。

創業以来培われてきたニュース推薦の技術とノウハウを動画レコメンドに応用する当プロジェクトはGunosyにとっても初の試みであると同時に、非常にタイトなスケジュールでの開発であったとのことです。

今回はこの動画レコメンドアルゴリズム提供までの舞台裏をGunosy Tech Labのエンジニア3名に赤裸々に語っていただきます。

■小澤さん(画像左)Gunosy Tech Lab  副室長 兼 Media ML
2017年中途入社。名古屋大学大学院にて博士課程修了。Gunosyは2社目となる。当プロジェクトではPMとして企画から予算、工数など全体の管理を担当する。

■大竹さん(画像中)Gunosy Tech Lab  Media ML
2021年新卒入社。東北大学大学院では主に自然言語処理を研究。当プロジェクトでは主に推薦ロジックの開発から実装までを担当する。

■上村さん(画像右)Gunosy Tech Lab  Media ML
2020年新卒入社。室蘭工業大学大学院時代はIOTや農業の栽培効率化などを研究。当プロジェクトでは主にバックエンド領域を担当する。

ワクワクとプレッシャーの間で

ー今回のプロジェクトのエピソードの前に、サービス概要を教えてください

小澤:もともとKDDIさんの『au 5Gチャンネル』というアプリは1年ほど前にリリースされていて、XRコンテンツやさまざまな動画コンテンツを楽しめるサービスです。さらに5Gの普及にも一役買う目的もあるかと。

大竹:いまの主流がパーソナライズやレコメンドということもあってGunosyに白羽の矢が立ったんですよね。

上村:KDDIさんとはこれまでも『ニュースパス』や『au サービスToday』で共同でサービス展開してきましたから、それもきっかけのひとつでしょう。

小澤:KDDIさんは最初からレコメンド機能を想定していたようです。実はGunosy以外にも候補の企業はあったものの、ユーザーの体験価値を最大化したいという狙いから選んでもらえたと。

ーそれはいつ頃のお話でしたか?

小澤:昨年ですね。その後実際に動き出しました。

上村:Slackのチャンネルが立ち上がった時、最初はどういった話なのだろうと(笑)Gunosy Tech Labではおよそ年に1回ぐらいはプロジェクトが生まれるので通常の範囲なのですが、聞くとどうやら開発期間が短めだということで。

大竹:僕も最初にお話を受けた時は、期間については若干プレッシャーを感じました。短期間でもクオリティは落とせませんから。ただ、動画推薦アルゴリズムは個人的にも会社としてもこれまでやったことがない新しい分野。知見もデータもノウハウもないので今後にも繋がりそうだし、ワクワクしたのを覚えています。

ープロジェクトメンバーは全部で何名でしたか?

小澤:メインはこの3人で、他にも数人に手伝ってもらいました。

ーキャスティングは小澤さんですよね?ポイントはどこに?

小澤:まず短期的に能力を発揮してくれるだろうという点。それとお願いする以上は新しいことにチャレンジして欲しかった。以前にやったことをなぞるだけでは楽しくないので。だから上村くんにはシステム周りの新しいことに、大竹くんには動画の推薦ロジック構築に挑戦という狙いがありましたね。

上村:そういう背景があったんですね。

小澤:2人ともその狙いと期待にはしっかり応えてくれました。ただ期間が短かったのでここからまだブラッシュアップは続きますけどね。

難しいところにこそ、面白みがある

ープロジェクトを進める上で特に意識したことは?

小澤:KDDIさんとKDDIテクノロジーさんの2社と組んでのプロジェクトだったので進捗やスケジュール管理はかなり入念にやりましたね。またレコメンドシステムの開発や工数について丁寧に説明することで要件が膨みすぎないよう留意しました。

大竹:意識したこととはちょっと違うんですが、印象に残っているのは最初の見立てが甘かったな、ということです。それまでのニュース記事推薦アルゴリズムの知見と経験を応用すれば難易度は高くないと思っていたのですが、これがなかなかうまくいかなかったんです。

ーどういった点でしょうか?

大竹:やはり動画とテキストではアプリ上でのユーザーの動きが違うんですよね。ニュース記事はクリックでユーザーの興味関心の有無がわかるのですが動画はそうじゃない。次々流れる動画をスワイプしていくんです。なので興味のあるなしのフィードバックの得られ方がそもそも違う。

ー何秒見たかといった判断になるのでしょうか

大竹:そうですね、2秒でスワイプよりも10秒の方が、といったデータの取り方です。そのユーザーからの信号の取り方が違うとその後の実験の問題設定や評価もかなり違うものになるので、そこが難しかったけど面白かったポイントです。

上村:あと大竹くんは最初のうちサーベイをかなりやってたよね。

大竹:動画の推薦そのものはアカデミックなドメインで、一応ジャンルとして確立されているのですね。なので海外のYouTube研究チームの論文等をざっと洗い出して、重要そうなトピックには全て目を通しました。おかげでいくつかの引き出しがある状態で開発に入れましたね。

上村:僕の場合はシステム開発のサーバ担当だったんですが、インフラやAPIなどプロダクトが多かったのと、それを動かすバッチも作らなければといったように全体を見渡しながら組み立てていく必要がありました。それが難しくもあり、面白かった。

ーその辺りは小澤さんの見立て通りって感じですね

上村:基本的には速度を意識してやりました。おっしゃる通り、まさしく小澤さんの見立てが良かったので上手くゴールまでいけたのかなと思っています。

小澤:大竹くんの言う通り動画レコメンドは我々にとって初めての分野でしたが、これまでの知見と実績に加えてアサインした2人の普段の仕事ぶりは熟知していたので、短い期間でしたがやってくれるだろうと信じていました。

ー小澤さんはプロジェクトで何が一番印象に残っていますか

小澤:面白かったのは…5Gチャンネルの動画アプリがどうやって作られているのかわかったことですね。普通にサーバを持っているだろうと思ったんですがアプリとデータ置き場だけで、なるほどこういう作り方もあるんだ、と。新しい知見が得られましたね。

密な連携の文化から生まれる信頼関係

ープロジェクトの進行はスムーズでしたか?

上村:やりにくさは全くないですね。なにせ2年も一緒にやってきた仲ですし、技術面でも特に不安なく、大竹くんならと。さっきも話した論文のサーベイなど、もともと彼の得意分野でしたから。全幅の信頼をおける相手です。

大竹:私も非常にやりやすかったです。信頼はもちろん上村さんのおかげで大きな安心感を得ることができました。と、いうのも『auサービスToday』に長く携わっていて社外の方との開発に慣れていらっしゃるんですよね。

上村:ふだんのコミュニケーションも結構密だから、意思疎通もスムーズだし。

大竹:細かいことでもSlackで即時共有したり、連携する文化は以前からありますよね。それをベースにうまく役割分担ができたかなと思います。

小澤:社内でも似たようなレコメンドシステムを作っていて、その時にどういう分担でやると上手く行きやすいかの知見を2人とも得ていたから、今回はかなりスムーズでしたね。自然と役割分担できていた。

ー開発分野もプロジェクトチームとしてもGunosyがやる価値があったようですね

小澤:もちろんです。技術的なノウハウや知見だけでなく、社外との連携といった経験も存分に活かすことができたと思いますし、限られた期間で最大のパフォーマンスは発揮できたと思います。

大竹:ニュース記事と動画の違いはさっきも話しましたけど、とはいえ大枠で捉えれば推薦アルゴリズムには違いありません。なのでどう実験すればいいかとか、そもそもの問題設定などはこれまでの蓄積が活きるわけです。先輩方が脈々と貯めてきたノウハウが社内の財産としてある。これは大きいですね。

ーGunosyの開発環境をGunosy Tech Lab目線で語ると?

上村:Gunosy Tech Labには本当にいろんな魅力があると思います。僕らのチームで言えば開発経験ですね。サーバの開発に留まらずアルゴリズムの開発まで幅広い。しかも短期間で、なおかつ質の高いアウトプットが出せる点も特徴といえるのではないでしょうか。

小澤:Gunosy自体、そもそも数字に強い文化です。その上でGunosy Tech Labという、データや数字を扱う部署が横断的に存在するのが他社との違いになるかと。開発を含めてユーザー体験まで考えたり、ユーザーに寄り添いつつアルゴリズムの新しい知見を持ってサービスに適用できる人材が揃っている。これは大きなアドバンテージですね。

10年後のニュースアプリを見据えて

ーみなさん今後取り組んでみたい研究や開発分野はありますか

小澤:基本的にはこの先もAIが広がっていくので、最先端技術のキャッチアップは継続して行なっていくべきでしょう。さらにGunosy Tech LabとしてはキャッチアップだけでなくAIを活用していろいろなサービスを作り、ユーザーや企業に提供する取り組みがスタンダードになるのではないでしょうか。

上村:最近、社内でもよく言われているのが10年後のニュースアプリを見据えるということ。新聞がどんどん廃刊になる中で我々ができる仕事はなにか。ここに意識を向けながら「百年クオリティ」、まさに10年後、100年後にも通用するような新しい情報提供の仕組みをAIを活用しながら作っていきたいです。

大竹:もともとアカデミックな領域と産業ドメインが混ざり合うところに興味があるので、サーベイの過程で見つけた興味ある分野をどんどん検証していきたいと思っています。あと、これは夢になるんですが、Gunosy発で新しい課題を解決する論文を出せたら。一般にあり得る課題で、学術ドメインにとっても新たな知見となるような。

ー知の循環ですね!

大竹:リサーチチームが論文をガンガン書かれているので、連携して生み出していけたら非常に嬉しいですね。

ーデータ分析ブログが盛んに更新されていますが

※Gunosy データ分析ブログ https://data.gunosy.io/

小澤:全員、書いたことあるはず(笑)

大竹:最近、私が書いたのが学術領域サーベイですね。ニュース記事推薦の学術領域では最近こんな話がありますよ、と紹介するもの。大元のサーベイを私が読んで、重要なところを抽出してまとめた記事になります。

上村:結構、自分でもわからないことが出てきて漠然とググると、このデータ分析ブログが検索上位で出てきたりして(笑)これからデータ分析をやってみようという人や慣れてきたけれど新しい分野の分析やってみたい人、どんな手法があるのか気になっている人にもヒットするブログになっていますよね。

大竹:他の企業でもきっと同じような内容で困っていると思うんですよね。他社さんのブログを読んでも結構いろいろな会社で類似の課題を抱えている。もしかすると読んでいただくことで解決のヒントが見つかるかもしれません。

ーブログを続けるのは大変では?

小澤:Gunosy Tech Labにはブログを続けようという意思がはっきりとあるんですよ。例えばあるチームではブログに何を書くかブレストして、そこで上がったテーマをピックアップ。さらにどのタイミングでリリースするかまで考えて運営しています。

ー仕組みがしっかりできあがっているんですね

小澤:このデータ分析ブログは続いていくことが価値そのものだと思うし、続いていることがそもそも技術面でのアピールになるので、これからも進化しつつ継続させていきます。ぜひご期待ください。

ーブログこれからも楽しみにしています。みなさん本日は貴重なお話ありがとうございました。

投稿者 gunosiru

株式会社Gunosyの人事部、広報、役員秘書、ライターから編成されたGUNOSIRU制作チームです。